ハンドメイズテイルが気に入ったら次はこれ"The MaddAddam Trilogy" by Margaret Atwood

Trilogy なので3冊あります。

『Oryx and Crake』のカバーアート
著者: Margaret Atwood
ナレーター: John Chancer
シリーズ: The MaddAddam Trilogy (Published Order), The MaddAddam Trilogy
再生時間: 12 時間 22 分
完全版 オーディオブック
配信日: 2005/01/21
言語: 英語
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『The Year of the Flood』のカバーアート
著者: Margaret Atwood
ナレーター: Bernadette Dunne, Katie MacNichol, Mark Bramhall
シリーズ: The MaddAddam Trilogy (Published Order), The MaddAddam Trilogy
再生時間: 14 時間 4 分
完全版 オーディオブック
配信日: 2009/09/22
言語: 英語
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『MaddAddam』のカバーアート
著者: Margaret Atwood
ナレーター: Bernadette Dunne, Bob Walter, Robbie Daymond
シリーズ: The MaddAddam Trilogy, The MaddAddam Trilogy (Published Order)
再生時間: 13 時間 24 分
完全版 オーディオブック
配信日: 2013/09/03
言語: 英語
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ハンドメイズテイルの著者であり、個人的に大ファンのMargaret Atwood 氏の作品です。彼女はとにかく言葉にセンスがあり、エッジが効いていて、シニカルな詩人。こんなにカッコいい作家はなかなかいないと思う。

3部作なので、まずはOryx and Crake からですが、始めたら3冊目を最後まで読む覚悟で。長いし、特にMaddAddam は途中歌なんかも入ってきて、ちょっとダルくなるところもあり、めげそうになるかもしれまんせんが、我慢して最後まで走り切ってほしいです。

1冊目、Oryx and Crake で Crakeという天才少(青)年が感染ウイルスを開発し世界中の人々に感染させてしまう。生き残ったSnowmanと全裸で生活する不思議な美しい人たちはどのようにして現れたのか、から始まり、The Year Of The Flood、MaddAddamで、世界が終わったとさえ思われる時代にGod's Gardenersを中心に世界がどのように進んでいくかが描かれる。

この本は数年前に聴いたのだけれど、新型コロナウイルスがやってきて、Oryx and Crake をまず思い出しました。コロナ出始めのころ、人工的に作られたウイルスでは?ということがニュースになっていたけれど、「まさか実際に中国版Crakeが…」という考えが頭をかすめました。

ハンドメイズテイルもそうだけれど、Atwood 氏が描くディストピアはそんなことはあり得ないだろう、というものではなく、少し手を伸ばしたところにある未来。Oryx and Crakeはウイルスで世界が破滅という部分を除いたら、ほぼあり得るというか、すでに現実になっている。人工的に作られた食肉、移植用に開発された動物、さらに理想を追求した果ての養子 (ペット?)。

この3部作がドラマ化されるというニュースがあったけれど、その後どうなったのだろう。頓挫していないことを願います。全裸の人たちが「ブルーになっているときにする儀式」はどうするんだろうというのも気になるし。Atwood氏、80歳過ぎて猛ブレイクしてます。素敵。

おすすめ度:★★★★★
Oryx and Crakeはマストです。

 

 

アメリカの闇が深すぎる "Caste The Lies That Divide Us" by Isabel Wilkerson

『Caste』のカバーアート
著者: Isabel Wilkerson
ナレーター: Robin Miles
再生時間: 14 時間 26 分
完全版 オーディオブック
配信日: 2020/08/04
言語: 英語
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普段なら選ばないジャンルだけれど、いろんなところで絶賛されていたので読んでみました。

結果→長かった。とにかく長かった。そして聴いていて辛かった。

カースト制度」と聞くと、インド特有のものと思いがちだが、アメリカ合衆国にもカースト制度は存在し、黒人はカースト制度の下位グループにある。カースト制度という視点でアメリカ社会を見ると、なぜトランプ大統領が支持されたかさえも見えてくるよというお話。

14時間越えのほとんどが、いかに黒人が差別に苦しんできたか延々と語られる。そしてそれは「差別に苦しむ」とかそういう生易しいものではない。リンチという言葉は、ネットリンチという言葉としてはまあまあ耳にするけれど、肉体的なリンチという意味ではあまり聞かなくなったと思うが、その肉体的(同時に精神的)リンチが次々に描写される。ホラー映画、マニアックな痛いものを好む人用の映画?で行われるような、想像を絶するリンチがこれでもかというほど出てくる。しかもそれは映画用に脚色されたものではなく、実際に実際の人間に対して起こった行為なわけです。人間って恐ろしい動物。

アメリカでは、黒人大統領が誕生し、黒人への差別は過去のものになろうとしているのかと考えがちだが、そんなに簡単に人は変わらない。この本の著者は黒人で、TEDでのスピーチを見たけれど、見た目も振る舞いも知的で洗練されて、とても立派に見える。その彼女でさえ、現在でも毎日が差別行為を受けているという。いかに目に見えないカースト制度が人々に染みついているかが延々と語られる。

 著者は被害を受けている側として綴っているけれど、人間は誰でも多かれ少なかれ、カースト制度を好きなのだと思う。白人でも黒人でも、人種差別をして人を見下す人は「実際に」たくさんいる。女王の教室(古くて申し訳ない)で真矢が「人間が生きている限り、イジメは永遠に存在するの。 なぜなら、人間は、弱いものを苛めるのに、喜びを見出す動物だからです。 」と言ってたのは真実。

最後の方に出てくる著者と修繕に呼んだ人とのやり取りは、CMで流れていた相田みつを氏の詩の話だなと思いました。

セトモノとセトモノと
ぶつかりっこすると
すぐこわれちゃう
どっちかやわらかければ
だいじょうぶ
やわらかいこころをもちましょう
そういうわたしはいつもセトモノ

この一件は、差別とかカーストとかの話ではなく、セトモノの話。白人同士だったとしても同じだったはず。

おすすめ度:★★★☆☆

ポジティブな内容がほぼ出てこないのが聞いていて辛くなってくる。そういう目的で書かれた本ではないから当たり前だが。話題になった本なので、読んで損はないと思うけれど、要約バージョンがあればそれで充分だと思う。
…と思ったらありました。聞いてないけど。
『Summary of Caste by Isabel Wilkerson』のカバーアート

 

"How to Disappear" by Gillian McAllister

『How to Disappear』のカバーアート

著者: Gillian McAllister
ナレーター: Nicola Walker
再生時間: 12 時間 44 分
配信日: 2020/07/09
言語: 英語
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少女がある事件の裁判で「少女A」として証言するが、うその証言をしたことから、「少女Aを探せ」というグループから命を狙われることとなる。少女Aは母とともに警察から新しいアイデンティティをもらい別人として別の場所で生きることになる。少女Aの父は離婚した妻との間に娘がいることから、実の娘を置いていくことはできないため一人残り、「少女Aを探せ」グループを壊滅しようと素性を隠してこのグループに参加する。

映画やドラマでたびたび別アイデンティティをもらう話は出てくるが、こんな感じなのか…と、もしこの本の内容が事実なら興味深い。

ただし、少女Aも、少女Aの母も、父もとにかくアホです。父は妻に自分への連絡できるように工作するし、母は自分の立場を全く理解せず残してきた家族にコンタクトしまくるし、少女Aも口が軽すぎるし、とにかく全員が「あんたたち、自分の置かれた立場をわかってんのか?!」と開いた口が塞がらない。一番アホなのは少女Aの母かもしれない。イライラします。こんなに女性を軽率でアホで心の弱い人間として描いた作者が女性なのが唯一の救い。もし男性ならもっとムカムカしたと思う。

読みやすいし、とりあえずサクサク進むので、軽く読むには楽しい内容かと思います。軽いサスペンス映画を見ているよう。映画どうだった?と聞かれて、まあまあ面白かったよ、と答えるような読後感です。

おすすめ度:★★★☆☆

"The Testaments The Sequel to The Handmaid's Tale" by Margaret Atwood

『The Testaments』のカバーアート
著者: Margaret Atwood
ナレーター: Derek Jacobi, Mae Whitman, Ann Dowd, Bryce Dallas Howard, Tantoo Cardinal, Margaret Atwood
シリーズ: The Handmaid's Tale
再生時間: 13 時間 18 分
完全版 オーディオブック
配信日: 2019/09/10
言語: 英語
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テレビドラマのHandmaid's Taleを見た人は続きが気になってしょうがないと思います。でも私は最後にどうなるかを知っている。このTestaments を読んだから。ふふふ。

ドラマHandmaid's Taleシーズン3の終わりかたを見ると、シーズン4からTestaments の内容になるとは思えない。Testaments に続くには、ジューンがそうとう頑張らなくてはいけないだろう。それを思うと辛い。

Testaments は2019年に発表されたので、1985年発表のHandmaid's Taleから34年後に完結するという、なんとも壮大な物語になった。テレビドラマの盛り上がりがなかったらTestaments はなかったかも知れない。

Handmaid's Tale の原作の内容は、ドラマのシーズン1までで終わっていて、シーズン2と3はドラマオリジナル。原作者のAtwood 氏はドラマの脚本家に、この人だけは殺さないでおいてね、と頼んでいた人がいるとネットで読んだが、まさにその殺されなかった人が Testaments の中の中心人物となる。

Testaments を読み進めて、その人物とその人物の役割がわかったときの衝撃はかなり大きい。おおー!あの人が!そうだったのか!と。本もドラマももう一度見直したくなる。

Testamentsの中でこの人物が言う。
I will get you back for this. I don’t care how long it takes or how much shit I have to eat in the meantime, but I will do it.

物語が完結したとき、この台詞を思い出して感無量となります。

早くテレビドラマが Testaments の内容に追い付いてほしい。でも、あれだけヒットしているドラマだから、人気のあるうちはとことん引き伸ばしてそう簡単には終わらせないだろうな…。

おすすめ度:★★★★★

"The Handmaid's Tale" by Margaret Atwood

『The Handmaid's Tale』のカバーアート
著者: Margaret Atwood
ナレーター: Elisabeth Moss, Bradley Whitford, Amy Landecker, Ann Dowd
シリーズ: The Handmaid's Tale
再生時間: 11 時間 22 分
完全版 オーディオブック
配信日: 2019/04/30
言語: 英語
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テレビドラマがきっかけで、初めて読んだMargaret Atwood氏の本。なぜもっと早く出会わなかったんだろう。こんな本を約35年に書いてしまったAtwood氏。かっこよすぎる。詩人でもあるためか、言葉にエッジが効いている。センスの塊。英語ネイティブでは全くない私でさえそう感じる。

ドラマで有名になっているので、多くの人がストーリーを知っていると思うけれど、本の内容はシーズン1まで。シーズン2、3はドラマ オリジナル。ドラマは本をどこまで再現しているのか、どこがドラマのオリジナルなのかを知るためにも、原作もぜひ読んでほしい。

本に戻ると、まず印象に残るのは、主人公がカナダに来た日本人女性観光客を見て「うらやましい」と思うところ。そして、主人公は日本人観光客から「幸せですか?」と質問される。この本が出たのは1985年。Atwood氏が日本人女性の地位がかなり低く、憐れむ存在だと思っていたことがわかる。「男性に従順に生きていくしかない、かわいそうな国の人」に幸せかどうかを聞かれるって、欧米人にとってこれ以上の屈辱ってあるだろうか。自分が見下していた人にいきなりマウント取られてしまうような…。ドラマではこのセリフを言うのは日本人ではない。今となっては日本人女性がそこまでかわいそうな存在ではなくなったというのもあるのかもしれない。

また本にだけにある最後のHistorical Noteは、「これってなに?」と聞き始め、状況を理解すると「おお、そういうことか」とまたさらに Atwood氏の頭の良さにひれ伏す思いでした。

この本をきっかけにAtwood氏のファンになり、彼女の本をいろいろ読みました。ほかの本についてもブログを書く予定です。

おすすめ度:★★★★★

"The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry" by Rachel Joyce

『The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry』のカバーアート

著者: Rachel Joyce
ナレーター: Jim Broadbent
シリーズ: Harold Fry
再生時間: 9 時間 57 分
完全版 オーディオブック
配信日: 2012/07/24
言語: 英語
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Miss Benson's Beetleがあまりにもよかったので、Rachel Joyceの他の本も聞いてみよう、ということで聞いてみました。Miss Benson's Beetleはユーモアにあふれていて、途中で吹き出してしまうこともあったので、Joyce氏の本はみんなそんな感じなのかと思っていました。

結果→違った。

定年退職している65歳のHaroldは、ある日、20年前同僚だったQueenieから手紙を受け取り、彼女が癌で余命が短いことを知る。彼女に数行の返事を書いてポストに投函するためにふらっと出かけたHaroldは、そのままQueenieのいるホスピスまで歩いていく決心をする。道のりは約600マイル(965.6キロ)。彼が到着するまでQueenieは生きて待っていてくれると信じて。

主人公のHaroldはとてつもなく平凡で、運動などしたこともない普通のおっさん。彼がQueenieのもとへ歩き出してから、いろいろな出会いがあり、彼の望む望まないにかかわらず、彼の旅は彼が最初に想像したものとは違うものになっていく。

気が付くと私もHaroldと一緒に歩いている。Haroldが困っているときは、がんばれ!と応援し、Haroldと共に夜空を見上げ、彼が苦難を乗り越えたときは歓喜し、彼の足の痛みを感じ、出会った人のやさしさに胸がいっぱいになります。結末はきっと、Haroldは無事に町に着き、Queenieに会い、二人は喜びの涙を流し、私も二人と共に涙を流すに違いない、と思っていると…。

旅が進むにしたがって、どうもそういう単純な流れではないぞ…ということに気が付く。予想(または期待?)した通りにはいかない。次々にはずれます。だから面白い。そして大きな驚きも待っている。そういうことだったのか…と。

多くの人が絶賛しているのも納得できます。でも私は辛かった。辛い部分が喜びの部分より多かったと思う。特に、Queenieの病気の症状のくだりはきつかった。前日偶然にも同じ癌を患ったオナマシイノマーさんのドキュメンタリーを見たので、容易に想像できてしまったというのもある。もし近しい人に同じような症状の人がいたとしたらもっと辛い気持ちになると思うので、そういう方は注意かもしれません。

平凡で幸せに見える人でも、たぶん皆なにかしらの辛い経験を心に抱えて生きている。ある人はその経験を昇華させているし、ある人は心にしまい込んでカギをかけて生きてる。

万人にウケるシンプルでハッピーで泣ける物語にするのは簡単なはずだったと思うけれど、そんなに単純なことではないんだよ…というストーリーを描いたJoyce氏はすごい。

おすすめ度:★★★★☆

"Eleanor Oliphant Is Completely Fine" by Gail Honeyman

『Eleanor Oliphant Is Completely Fine』のカバーアート

著者: Gail Honeyman
ナレーター: Cathleen McCarron
再生時間: 11 時間 36 分
完全版 オーディオブック
配信日: 2017/05/18
言語: 英語
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エレノアは一人暮らしの29歳の会社員。友達がいなくて、仕事以外で人と話すことはほとんどなく、口を開けばかなりな毒舌。仕事をして、家で一人でウォッカを飲む生活を続けている。ある日、会社で新しいIT係のレイモンドと知り合いになったことから、エレノアの生活が少しずつ変わっていく。

とにかくエレノアの他人とのやりとりが面白い。人とは変わった環境で生活してきたからか、普通なら言わないであろうことをそのまま口に出してしまう。または口に出さなくても彼女の心の声があまりに正直で、辛辣で吹き出してしまう。毒舌と言っても、彼女にとっては悪気は全くなく大真面目なところが楽しい。

そしてエレノアの過去が少しずつ明かされていき、なぜ彼女がこういう仕上がりになったのか、なぜウォッカを切らすことがないのか…がわかってくると、エレノアの幸せを願わずにはいられなくなる。

笑える部分もたくさんあるけれど、ベースはかなりダークで、特にエレノアと母親との会話は辛い。なぜエレノアはこの毒親の母を拒否することができないのか…も、あとでわかります。 

エレノアがレイモンドと出会ってよかった。レイモンドがいいやつでよかった。もし出会わなかったらと思うと怖い。

リース・ウィザースプーンが彼女主演で映画化するということです。楽しみ。

 

おすすめ度:★★★★☆