"The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry" by Rachel Joyce

『The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry』のカバーアート

著者: Rachel Joyce
ナレーター: Jim Broadbent
シリーズ: Harold Fry
再生時間: 9 時間 57 分
完全版 オーディオブック
配信日: 2012/07/24
言語: 英語
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Miss Benson's Beetleがあまりにもよかったので、Rachel Joyceの他の本も聞いてみよう、ということで聞いてみました。Miss Benson's Beetleはユーモアにあふれていて、途中で吹き出してしまうこともあったので、Joyce氏の本はみんなそんな感じなのかと思っていました。

結果→違った。

定年退職している65歳のHaroldは、ある日、20年前同僚だったQueenieから手紙を受け取り、彼女が癌で余命が短いことを知る。彼女に数行の返事を書いてポストに投函するためにふらっと出かけたHaroldは、そのままQueenieのいるホスピスまで歩いていく決心をする。道のりは約600マイル(965.6キロ)。彼が到着するまでQueenieは生きて待っていてくれると信じて。

主人公のHaroldはとてつもなく平凡で、運動などしたこともない普通のおっさん。彼がQueenieのもとへ歩き出してから、いろいろな出会いがあり、彼の望む望まないにかかわらず、彼の旅は彼が最初に想像したものとは違うものになっていく。

気が付くと私もHaroldと一緒に歩いている。Haroldが困っているときは、がんばれ!と応援し、Haroldと共に夜空を見上げ、彼が苦難を乗り越えたときは歓喜し、彼の足の痛みを感じ、出会った人のやさしさに胸がいっぱいになります。結末はきっと、Haroldは無事に町に着き、Queenieに会い、二人は喜びの涙を流し、私も二人と共に涙を流すに違いない、と思っていると…。

旅が進むにしたがって、どうもそういう単純な流れではないぞ…ということに気が付く。予想(または期待?)した通りにはいかない。次々にはずれます。だから面白い。そして大きな驚きも待っている。そういうことだったのか…と。

多くの人が絶賛しているのも納得できます。でも私は辛かった。辛い部分が喜びの部分より多かったと思う。特に、Queenieの病気の症状のくだりはきつかった。前日偶然にも同じ癌を患ったオナマシイノマーさんのドキュメンタリーを見たので、容易に想像できてしまったというのもある。もし近しい人に同じような症状の人がいたとしたらもっと辛い気持ちになると思うので、そういう方は注意かもしれません。

平凡で幸せに見える人でも、たぶん皆なにかしらの辛い経験を心に抱えて生きている。ある人はその経験を昇華させているし、ある人は心にしまい込んでカギをかけて生きてる。

万人にウケるシンプルでハッピーで泣ける物語にするのは簡単なはずだったと思うけれど、そんなに単純なことではないんだよ…というストーリーを描いたJoyce氏はすごい。

おすすめ度:★★★★☆