ピューリッツァー賞受賞 "The Nickel Boys" by Colson Whitehead

『The Nickel Boys』のカバーアート
著者: Colson Whitehead
ナレーター: JD Jackson, Colson Whitehead
再生時間: 6 時間 46 分
完全版 オーディオブック
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2020年ピューリッツァー賞受賞作ということです。1960年代にちょっとした運の悪さから、無実の罪でニッケル校に収容された黒人少年エルウッドが、それはそれはひどい目に合うお話。いじめを止めに入っただけで、暴力を始めた少年と受けた少年と共に鞭打ちの罰を受ける。途中気を失うほどの拷問。鞭打ちの後、数週間入院しなければいけないほどの怪我となる。恐ろしい。ただただ恐ろしい。

地獄のような環境で青春時代を過ごす少年たちが描かれており、ひどい環境の中でも一筋の希望を持って読みすすめていくが、どんでん返しも待っている。

Isabel Wilkerson氏の「カースト」であまりにも恐ろしい拷問を読んでいたので、ニッケル校での虐待の歴史については驚かなかったが、読んでいて辛いには変わりない。起こってしまった覆せない歴史。こういう悲しい歴史のストーリーがピューリッツァー賞を取るべくして取る傾向はいつまで続くのか。過去に起きた全ての恐ろしい出来事を全て白昼のもとにさらして、人々が反省し、謝罪し、「二度と繰り返しません」と誓う日々を送るまで続くとしたら、アメリカの黒人差別問題は現在進行形なわけだから当分続くのでしょう。

私はストーリーよりも鞭を持つ側の気持ちに引っかかってしまった。痛いことを考えただけで、太ももの裏に嫌なビリビリ感が走るが、世の中には攻撃もされていない相手に対して、一方的に暴力を振るうことができる人が存在するのか。または慣れてしまえば、誰でも、拘束され、泣き叫ぶ者相手に鞭を振り下ろすことができるようになるのか。その人の脳はどうなっているのか。もともとの脳なのか、変わってしまった脳なのか。ジョージ・フロイド氏を殺害した警官はニッケル校の教官と同じ脳の構造なのか。

Whitehead氏のもうひとつのピューリッツァー賞受賞作である「地下鉄道」はドラマにもなっていますが、パスします。

 おすすめ度:★★☆☆☆
ピューリッツァー賞受賞作だし、世間的にはお勧めと思いますが、私は辛いので勧めません。。

 

ジグソーパズルのピースが揃ってくるのが素敵 "Anxious People" by Fredrik Backman

『Anxious People』のカバーアート

著者: Fredrik Backman
ナレーター: Marin Ireland
再生時間: 9 時間 53 分
完全版 オーディオブック
配信日: 2020/09/08
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スウェーデンでのお話。強盗に入った銀行がキャッシュレス銀行だったことから強盗は失敗。この強盗がたまたま逃げ込んだのは売り出し中アパートメントのオープンハウス。強盗の望む望まないに関わらず、このオープンハウスに来ていた人を人質にした立てこもり事件となってしまう。後に人質は解放され、アパートメントに警官が踏み込んだ時には、強盗は消えている。床に大量の血痕を残して。強盗はどこに消えたのか?

警官は強盗を探すために、人質になっていた人に対して次々にインタビューをするのだが、誰一人として要領を得ない。本人たちはいたって真剣に、それぞれ(警官にとっては)馬鹿げた話ばかりを延々とする。

また、強盗の話と並行して、アパートメントから見える橋で10年前に起こった飛び降り自殺が語られる。この人質事件と10年前の事件はどう絡んでくるのか。人質たちそれぞれの話もランダムに進み、繋がりがわからない。だから読んでいて困惑する。つまらないとさえ感じてしまう。

しかし、我慢して読み進もう。次第に、とりとめなく進んでいた(ように見える)それぞれのお話がどうやら繋がっているぞ…となったころから、ストーリーはじわじわと本質を表す。人質事件を解決しようとする親子警官、精神科医、消えた強盗、10年前の自殺…。ばらばらに見えていた話が、ジグソーパズルのピースがはまっていくように、次第に全体像が見えてくる。最後はジグソーパズルの最後のピースがスポッとはまったような爽快感と共に、なるほど!と膝を打つ。そしてしみじみと「いいお話だった…」と感心。

すべてのピースがそろったジグソーパズルを眺めた後、また最初から読み直したくなる。そして実際に読み直すと、「なるほどね…」とさらに面白く読めます。

ユーモア・風刺というジャンルになっているけれど、最後まで読むとかなり心暖まり系なお話であることがわかります。なんといってもザラが良い。ザラ最高。彼女とはきっと友達にはなれないと思うし、なりたくないけれど、少し離れたところで彼女を観察していたい。

そしてスウェーデン人にストックホルムとはどういう場所であるのか、ストックホーマーとは実際どういう意味合いを持っているのかをじっくり聞いてみたい。いわゆる「東京人」というのとはずいぶん違っているというのはわかりました。

おすすめ度:★★★★☆
途中まではつまらないかも。でも我慢して読み進めましょう。最後にかけて気持ちいいほどすっきりします。

映像化して欲しい "Klara and the Sun" by Kazuo Ishiguro

『Klara and the Sun』のカバーアート
著者: Kazuo Ishiguro
ナレーター: Sura Siu
再生時間: 10 時間 16 分
配信日: 2021/03/02
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Ishiguro氏のノーベル賞受賞後初の作品。

クララというAF(Artificial Friendというロボット)が主人公の近(遠?)未来。AFはお金持ちの家庭の子が買ってもらえる高級おもちゃ的な存在です。道で普通に見かけるほどだから現在のペッパー君よりかなり出回っている。AFの髪の毛や肌の色についての記述があるので、人間に近い外観と思われるけれど、AFであると普通に判断できるので人間とは明らかな違いがあるのでしょう。どんなものなのかを映像で見てみたい。

AFはスマホのように次々に改良型が出てくるようで、クララは最新のものではなく、ひとつ前の型のロボット。ただし同じ型のロボットでも個体差があるようで、クララは人間観察眼がずば抜けている。そして、様々なシチュエーションを経験して、クララはさらに人間の感情を理解していく。

クララは買ってくれた家族想いで、理不尽な態度をされたとしても穏やかに大人な対応ができる、優秀なロボット。ただし、どんなに家族と交流を深めても、ロボットはロボット、という存在意義は変わらない。 Ishiguro氏の臓器移植用に生まれ育った子供たちのお話「私を離さないで」で感じたような、どこか割り切れない寂しさがずっと流れています。この余韻はずっと残ります。おすすめかと言われたら「ぜひ!」とは言えないけれど、映像で見てみたいかと言われたら、「絶対見てみたい!」です。

少女の肖像があきらかになる場面は、かなりな衝撃シーンになることでしょう。

おすすめ度:★★★☆☆

シリコンバレーを見た人にお勧め"How to American" by Jimmy O. Yang

『How to American』のカバーアート

How to American
An Immigrant's Guide to Disappointing Your Parents
著者: Jimmy O. Yang, Mike Judge - foreword
ナレーター: Jimmy O. Yang
再生時間: 6 時間 5 分
配信日: 2018/03/13
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気分が落ちていたので、明るい内容のものを聴こうと思って選んだのがこれ。この著者のジミーはHBOドラマ「シリコンバレー」に出演している英語のできない中国人ジアン・ヤン役の人です。シリコンバレーはアマゾンで現在有料になってしまったけど、とてもお勧めです。ジアン・ヤンはびっくりするほどバカにされる役どころ。でもバカにされても仕返しもちゃんとする、やられっぱなしでは決してないのが見ていて爽快。アジア人だけでなく、他人種へのステレオタイプな偏見満載で、それが返ってアメリカを小バカにしている。こんなんテレビで流していいのか、とも思うけれど、とにかくジアン・ヤン最高。

ジアン・ヤンは英語ができない役だけれど、本人は中学生のときに家族で渡米しています。で、背の低い卓球の上手な中国人の少年が、いかにアメリカ人になっていくかが語られてます。要はジミー君のサクセスストーリー。中国人の家族の掟→目上の人を敬い、一緒に食事をすることがなによりも大切、みたいなことも学べて興味深い。いろいろなドラマで中国文化を押し通す、頭の固い中国人のお父さんが出てきて、これってちょっと盛りすぎではないの?と思っていたけれど、あれは盛っていないというのがわかりました。

シリコンバレーシーズン6、早くアマゾンで見られるようにならないかな。いつかジアン・ヤンが卓球の腕前を披露するようなシーンも出てくればいいのに。

おすすめ度:★★★☆☆

シリコンバレーを見ているのが前提と思うけれど、見ていなかったらそもそもこの本を読もうとは思わないかな。ジミー君の楽しいお話をさらりと聴く感じで楽しめます。

 

大!どんでん返しがすごい "Leaving time" by Jodi Picoult

『Leaving Time』のカバーアート
著者: Jodi Picoult
ナレーター: Rebecca Lowman, Abigail Revasch, Kathe Mazur, Mark Deakins
再生時間: 15 時間 11 分
完全版 オーディオブック
配信日: 2014/10/14
言語: 英語
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 Jennaという中学生の女の子が、3歳の時にいなくなってしまった母を探すために霊能者を訪ねる。どこかで生きているのか、死んでいるのか、なぜ小さい自分を置いて母はいなくなってしまったのか…。母がいなくなった夜に起きた事件を担当した元刑事も巻き込み、10年前の真実を突き止めようとする。Jenna、Jennaの母アリス、霊能者、元刑事からの視点でストーリーが展開していく。

アリスはゾウの専門家であるため、アリスのパートではゾウの生態について多くを学びます。ゾウの記憶、群れの絆、母子の絆、人とゾウの絆…。サファリパークや動物園でゾウを見たら、絶対にこの本を思い出すでしょう。

この3人のアリス探しチームは、順調とは言えないけれど、一歩一歩真実に近づいていく。そして最後のほうで、この本の最大のハイライト「超巨大!」どんでん返しが待っています。「えー!」と声が出るほどの、びっくりな大!どんでん返し!です。このどんでん返しを知った後、「え?じゃあ、あれはこういうことだったってこと??」と戻って読み(聴き)返してしまった。

最近「占いタクシー」という霊能者がタクシー運転手になり、乗せた客を霊視するリアリティ番組を見たけれど、この運ちゃんにこの本を読んでもらって、これはあり得る、あり得ない、を是非とも聞きたい。

おすすめ度:★★★★☆
ゾウの生態がちと長いけれど興味深いし、とにかくどんでん返しがすごいです。

不思議な世界感にどっぷり浸かれる "The Memory Police" by Yoko Ogawa

『The Memory Police』のカバーアート
著者: Yoko Ogawa, Stephen Snyder - translator
ナレーター: Traci Kato-Kiriyama
再生時間: 9 時間 8 分
完全版 オーディオブック
配信日: 2019/08/13
言語: 英語
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Audibleの洋書に登場する日本作家は、村上春樹氏みたいに世界的にファンがいる作家や、文豪と言われる作家の作品は別として、それほど多くはない。吉本ばなな氏作品はイタリア語のほうが英語より多い。イタリアに熱狂的ファンがたくさんいるのでしょう。

小川洋子氏の作品は3つ出てます。どういう経緯で英訳、オーディブル化されるのだろう。小川氏のファンの翻訳家がいるのかも。私が翻訳家なら「絶対翻訳したい、させてください」と言い出すと思うからこれが理由かもしれない。

現在Audibleにある彼女の作品はこちら。
・The Memory Police(密やかな結晶)
・The Housekeeper and the Professor(博士の愛した数式)
・Revenge(寡黙な死骸みだらな弔い)
3つともとても素敵です。実は私は彼女の作品を日本語で読んだことがないのだけれど、英語で読んでも(聴いても)しみじみとじわーっと心に響きます。洋書を読む(聴く)ことがハードルが高いと思っている人がいたら、日本の作家の英語版の本はかなりおススメです。

余談ですが、「博士の愛した数式」の映画には怒りを覚えるほどがっかりしました。なぜ能が!?俳優への支払いで予算の大部分を使ったに違いない。がっかり。悔しい。あんなに素敵な作品なのに。

さて、このMemory Policeですが、大きさなど不明の島が舞台。政府(かな?)からある日突然「あるもの」がなくなるとお達しがある。それはモノだったり、職業だったり、果ては体の一部だったり。

人々はその「あるもの」を次々に捨てたり、燃やしたりしなければいけない。内緒で持っていたりするとメモリーポリスに逮捕されてしまう。メモリーポリスには誰も逆らえない。そして人々は少しすると、そのなくなった「あるもの」がなんだったのか、それはどういうモノだったのかなど、そのモノについての記憶を失ってしまう。

人々の中には主人公の母のように、まれに記憶を失わない人がいて、メモリーポリスはその人たちを執拗に探し出し、連れ去っていく。この記憶を失わない人を匿ったりすると、匿った人も逮捕されてしまう。逮捕された人がどうなるかは誰もわからない。だから皆メモリーポリスを恐れている。

世界からひとつひとつモノが消えていく。それでも人々はそれが当たり前のように生活を続ける。聴いていると、主人公と共にこの不思議な世界に当たり前のように住んでいる気持ちになり、人々とともにメモリーポリスを恐れ、リアルにハラハラドキドキします。じんわりと広がる絶望感、そしてなぜ絶望すると思ったのかも忘れていく。この不思議な感覚は、どこかで経験したと思ったら、それは村上春樹氏の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の壁の中の世界でした。

読後感は決して明るいものではありません。ある日突然UFOに連れていかれて、元の世界に戻されて、あれは夢だったのか現実だったのか…とふと思う感覚に似てると思う。UFOに連れ去られたことがないからわからないけれど。

おすすめ度:★★★★★
彼女の作品は超おすすめです。他の2つも聴いてほしい。

"The Midnight Library" by Matt Haig

『The Midnight Library』のカバーアート
著者: Matt Haig
ナレーター: Carey Mulligan
再生時間: 8 時間 49 分
完全版 オーディオブック
配信日: 2020/08/13
言語: 英語
Kindle版はこちら

goodreads.com でベストフィクションに選ばれていたので期待して聴いてみました。
結果→良さがよくわからなかった…。もう一度聴けばわかるのかな。

主人公のノーラは何もかもうまく行かなくなり、自ら死を選ぶ。するとMidnight Libraryという生と死の間にある不思議な場所で司書に出会う。この司書は世界はパラレルワールドで、この図書館にはのノーラが過去に違った選択をしていた場合の人生の本が無数にありいくつかを体験させてくれるという。
実際にノーラは「あの時こうしていたらこうなっていた」人生をいくつか体験する。オリンピックメダリストになっていたり、ロックバンドで世界的に有名になって超有名ロック歌手とつきあっていたり、氷河学者として研究していたり…。どの人生を体験しても、全てがパーフェクトというわけにはいっていない。そりゃそうだわな。でも完璧にこりゃだめだ、という設定があり、毎回図書館に戻ってくる。

それにしても、です。たとえ違う選択をしたとして、家族や親友が亡くなっているというのは、「普通は」ないのではないかと思う。そんなに身近な人が事故や自死で若くして死んでる人ってそんなにいない気がする。ないわけではないけれど、この人生ならあの人が死に、この人生ならこの人が死んでるって普通じゃない。普通じゃないからフィクション小説なんだろうけれど。
また、毎回ノーラはその人生の途中から急に参加するため、その場の人生設定を理解しておらず、周りの人に「どうしたの?変だよ」と言われるのだけれど、「ちょっとぼーっとしていたから…」など適当な理由でごまかす。オリンピックメダリストとしていきなり大勢の観客を前にスピーチをする場面も、即興スピーチで乗り切るけれど、さすがに原稿は用意してあったでしょ…と思ってしまう。こういういろんな「さすがにこうはならないでしょ…」が続いたため、私にはしっくりこなかったのだと思う。

死を考えている人でも最後まで読めば希望が持てる本、と多くのレビューに書いてある。確かに最後は希望で終わる。だからと言って「ものすごく」落ち込んでいる人に、「この本読んで元気を出して」という本ではない。私がそう言われて渡されたらお心遣いはありがたいが、ムカつくだろう。ちょっと落ち込んでいる人なら考えが変わっていいかもしれないが、生きるのが嫌になるほど落ち込んでいる人は、この本に限らず、本を読む前に医者に行って欲しい。

Goodreadsで7万人がこの本に投票したという。絶賛してる人多数。それなのにいまいちと感じてしまった私は英語力不足なのか、素直でないのか、日本文化に合わないのかわからない。集中できないで聴いていたところもあるので、返品しないでもう一度聴いてみようとは思う。

おすすめ度:★★★☆☆
すごく良かったという人に良かった点を聞いてみたい。